35年で、賃貸を7軒。
大阪で5軒、東京で2軒。今住んでいるのが7軒目です。
これまで退去した6軒すべて、敷金トラブルはほぼゼロでした。14年住んだ部屋でも、最終的な手出しはわずか3,000円。
ハウスクリーニング費用を法外に請求された経験も、退去立会いで強引な対応を受けた経験も、35年の中で一度もありません。
「敷金が返ってこない」「原状回復で数十万円請求された」――そんなトラブルが業界で問題になり続けるなか、私はなぜ揉めずに来られたのか。
賃貸歴35年、FP3級として国交省ガイドラインも学んだ50代独身の私が、退去した6軒の精算実例と、揉めないための5つの心得を、書ける限りの事実でまとめます。
6軒の退去精算 実例総覧
まずは、退去した6軒の精算結果を一覧にまとめます。
| 物件 | 居住期間 | 制度 | 退去精算結果 |
|---|---|---|---|
| 北花田(寮) | 1990年〜 | 寮 | 寮契約のため精算なし |
| 花園町 | 1993年 | 関西式(保証金・敷引き) | 保証金返金なし |
| 弁天町 | 1993〜2002年 | 関西式 | 契約書通り8万円返金 |
| 住之江1 | 2002〜2009年 | 関西式 | 保証金返金なし |
| 住之江2 | 2009〜2011年 | 関西式 | 保証金返金なし |
| 立花 | 2011〜2025年 | 関東式(敷金) | 14年経年劣化超過・3,000円のみ請求 |
6軒のうち、退去時に明確な精算があったのは弁天町(+8万円返金)と立花(-3,000円請求)だけ。
大阪時代に住んだ4軒(花園町・弁天町・住之江1・住之江2)は、すべて当時主流だった「保証金・敷引き」制度。弁天町は契約書通り8万円が返金された一方、ほかの3軒は返金がありませんでした。この関西独自の制度については章2で詳しく説明します。
注目すべきは、東京に来てから14年住んだ立花アパートでの手出しわずか3,000円という結果。
14年も住めば、壁紙も床もエアコンも、ほとんどが「経年劣化耐用年数」を超えています。国土交通省のガイドラインに沿って正しく計算すれば、借主の負担はほぼゼロ。私のケースは、まさにそのガイドライン通りの精算でした。
そして現在住んでいる上京2軒目(7軒目)では、また別のタイプの「退去対策」が始まっています――入居後1週間以内に、現状の傷や不具合を管理会社のアプリから写真で記録する仕組み。退去時のトラブルを防ぐための新しい流れです。
関西式(保証金・敷引き)vs 関東式(敷金)の違い
大阪で5軒の賃貸を渡り歩いてきた35年で、私が経験したのは関西独自の「保証金・敷引き」制度でした。
入居時に「保証金」として、家賃の約7ヶ月分を預けます。家賃が5万円なら35万円。関東に比べてかなり大きな金額です。
そして退去時、その保証金から「敷引き」と呼ばれる金額が自動的に差し引かれます。敷引きは契約書に明記されており、家賃滞納の備えや原状回復費の前払いとして、返ってこないお金です。
例えば保証金50万円・敷引き20万円の契約なら、トラブルがなければ退去時に差額の30万円が返金されます。敷引きが大きい契約なら、そもそも返金ゼロもありえます。
花園町・住之江では退去時の返金はありませんでした。花園町は契約内容を覚えていません。住之江は本来5万円が返金されるはずでしたが、当時の私は住み替えにあたってDIYで部屋に手を加えていたため、原状回復が必要で返金されないのは当然だと思っていました。嫌な思いはまったくありません。一方、弁天町は契約書通りに8万円が返金されました。同じ関西式でも、契約と状況によって結果はさまざまです。
関東は「敷金・礼金」方式。敷金は退去時に返却されるお金で、原状回復費用を引いた残額が戻ってきます。立花の場合は、3,000円のみ請求され、残額は返金されました。
関西式の保証金・敷引きは、2001年の消費者契約法改正を契機に見直しが進み、現在は関西でも敷金・礼金方式が主流になりつつあります。
国交省ガイドラインの基本(経年劣化・耐用年数)
退去時の精算で「揉めない」ためには、国土交通省のガイドラインを知っておくことが、最大の武器になります。
正式名称は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」。退去時にどこまでが借主負担で、どこからが貸主負担なのかを明確にした行政の指針です。2020年の民法改正でも、その考え方が法律に明文化されました。
最大のポイントは、「通常損耗」と「経年変化」は貸主が負担するということ。普通に生活していて自然につく傷み――壁紙の日焼け、家具を置いていた跡、フローリングの軽い擦れ、エアコンの古さ――これらは借主が原状回復費を負担する必要はありません。
そして、もうひとつ重要なのが「耐用年数」の考え方。主な設備の耐用年数は以下の通りです。
| 設備・部位 | 耐用年数 |
|---|---|
| 壁紙(クロス) | 6年 |
| エアコン | 6年 |
| 給湯器 | 6年 |
| カーペット | 6年 |
| 流し台 | 5年 |
| フローリング・襖・畳 | 耐用年数なし(消耗品扱い) |
耐用年数を超えた設備の価値は、残存価値1円として計算されます。つまり、入居から6年以上経過していれば、たとえ借主が壁紙を多少汚していても、その分の負担はほぼゼロです。
このガイドラインの存在を知っているだけで、退去時に「数十万円の張り替え費用を請求された」というトラブルの大半は回避できます。
立花14年「手出し3,000円」の真相
立花アパートに住んだのは、2011年から2025年までの14年間でした。
退去精算の結果は、手出しわずか3,000円。洗面台の一部プラスチック部品を破損していたため、その交換費用としての請求でした。
なぜここまで負担が少なくて済んだのか。理由は2つあります。
ひとつは、章3で説明した国交省ガイドラインのルール。壁紙(6年)、エアコン(6年)、給湯器(6年)、カーペット(6年)――14年間住み続けていたので、室内のあらゆる設備が耐用年数を2倍以上経過していました。つまり、残存価値1円。壁紙を多少汚していても、床に家具の跡があっても、借主負担はゼロ。
もうひとつは、私自身の日常の習慣でした。
我ながら、やや潔癖気味だと思います。引っ越してからの14年間、特別な大掃除をしなくても、常に掃除を続けていました。だから、退去時にあらためてやったのは、家電をどかした場所のホコリを取って、汚れを拭くだけ。それで部屋は十分にきれいでした。
退去立会いの担当者から、こう言われたのを覚えています。
「この1年間たくさんの退去立会いをしましたが、この部屋が一番きれいです。14年住んだとは思えないくらいきれい」
社交辞令ではない、率直な感想だったと思います。
唯一の請求が3,000円で済んだのは、ガイドライン通りの精算ルールと、日々の暮らし方が重なった結果でした。「14年も住んだら、何十万円もぼったくられるのでは」と心配する声をよく聞きますが、正しい知識と日々の習慣さえあれば、そんなことは起きません。
鍵紛失でも乗り切った話|正直に話せば道が開く
14年も住んでいれば、トラブルもありました。
2018年頃のことです。出張から帰宅した夜、鍵が見当たらないことに気づきました。出張先で落としたのか、移動中か、まったく見当もつきません。
夜中だったので管理会社には連絡が取れず、ネットで急ぎ鍵業者を呼びました。ところが鍵はディンプルキータイプで、業者でもなかなか開けられず。早く部屋に入りたかった私は、泣く泣く鍵穴ごと交換してもらい、高額の費用を支払いました。
翌日、管理会社に経緯を電話で報告。すると担当者の対応は、いたって普通でした。「そのままにしておいて大丈夫ですよ」とのこと。後で振り返れば、いいかげんな会社だったのか、対応者が新人だったのか――今でも判断がつきません。
その「曖昧な対応」が、7年後の退去立会いで問題になりました。
退去立会い担当者から「鍵が当初のものと違うので、交換費用を請求します」と告げられたのです。
私は、当時の電話のやり取り――「そのままで大丈夫」と言われたこと――を、担当者に正直に話しました。
幸い、立会いに来てくれた方がとても誠実な人でした。「事情はわかりました。私から管理会社にうまく伝えますね」と便宜を図ってくれて、最終的に鍵交換費用は請求されず、洗面台のプラスチック部品の3,000円だけで精算が完了したのです。
この経験から学んだのは、事実を正直に伝えることと、相手の人柄に救われる場面があるということ。退去立会いは、淡々と書類を確認するだけの作業に見えますが、実は「人と人の対話」がカギになる場面でもあります。
50代独身が退去で揉めないための5つの心得
賃貸歴35年・7軒の暮らしから学んだ、退去で揉めないための5つの心得をまとめます。
① 入居時に「現状の傷・不具合」を写真で記録する
今住んでいる上京2軒目では、入居後1週間以内に、管理会社のアプリから現状の傷・不具合を写真で送る仕組みになっていました。退去時のトラブルを防ぐための新しい流れです。スマホで撮影しておくだけで、「最初からあった傷」が証拠として残ります。
② 日々の掃除を習慣にする
立花の14年で「14年住んだとは思えないくらいきれい」と立会人に褒められたのは、特別な大掃除をしたからではなく、日々の積み重ねでした。退去前の追い込み清掃で挽回するのは難しいので、日常から少しずつが正解です。
③ 国交省のガイドラインを把握する
「壁紙の耐用年数は6年」「通常損耗は貸主負担」――これを知っているだけで、業者から不当な請求を受けても根拠を持って交渉できます。
④ 退去立会いには必ず立ち会う
書類だけのやり取りで済ますと、後で「この傷は最初からあった」と主張できません。その場で疑問を伝えるのが鉄則です。
⑤ 誠実にコミュニケーションを取る
鍵紛失で7年後に問題になりかけた時、私が便宜を図ってもらえたのは、事実を正直に伝えたからです。退去精算は最終的には人と人のやり取り。誠実さは何より強い武器です。
ちなみに今は、家具の角にクッション材を貼って、新しい部屋を傷つけないようにしています。次の退去のときも、できるだけ手出しなしで乗り切るために。
退去精算の経験は、住まいに対する向き合い方を変えてくれます。「次に住む家を、もっと大切に扱おう」と思えるからです。
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