「節税になりますよ」。
ワンルームマンション投資をすすめられたとき、業者の担当者がほぼ必ず口にする言葉です。私も、この言葉を信じて2区分を買ったひとりでした。確定申告で税金が戻ってくる――そう聞くと、なんだか得をしている気持ちになったのを覚えています。
シリーズの最初(vol.1)で、私は「節税効果を差し引いても、4年で約530万円を失った」と書きました。今回はその「節税」の部分だけを取り出して、持っていた間、本当に得をしていたのかを、FP3級になったいまの目で答え合わせします。
先に結論をお伝えします。私が4年あまりの保有で節税できたのは、ざっくり約90万円。そのために失ったのが、約530万円でした。節税できた額の、およそ6倍を失った計算です。
なお、この記事は「持っている間の節税」だけの話です。売るときにかかる税金(譲渡益など)は、損切り編(vol.6)以降であらためてお話しします。話がからまらないよう、保有中と売却時はきっぱり分けて書いていきます。
業者が見せた「節税」は、年9,600円だった
まず、業者が私に見せてくれた試算書の数字を振り返ります。手元に残っているのは2件目(新横浜)の試算書だけですが、ここに「節税」の正体がよく表れています。
担当者は1枚の資料をテーブルに広げました。当時の私の年収である約650万円を前提に、毎月の収支や節税額がびっしりと並んだ書類です。数字が多くて、正直、その場ではしっかり読めていませんでした。いま落ち着いて見ると、こういう内容です。
| 項目(新横浜・年収650万円前提) | 業者の試算 |
|---|---|
| 毎月の収支 | マイナス5,687円 |
| 1年間の収支 | マイナス68,244円の赤字 |
| 節税できる額(初年度・9か月分) | わずか9,600円 |
| 節税できる額(3年目・12か月分) | 3万円ほど |
並べてみると、おかしなことに気づきます。
1年で6万8千円の赤字を、9,600円の節税で埋める。どう計算しても、穴はまったく埋まりません。むしろ、節税してもなお赤字が大きく残る試算でした。つまり、業者が自分で見せてくれた書類の中ですら、節税は赤字をカバーできていなかったのです。
それでも当時の私は契約しました。数字よりも、信頼していた上司の存在と、担当者のていねいな説明のほうが、ずっと大きく見えていたからです(このあたりはvol.2でくわしく書きました)。
ここから先は、その「節税」という言葉の中身を、一枚ずつめくっていきます。
そもそも「不動産で節税」とは何なのか
「不動産を持つと節税になる」と言われても、なぜ税金が安くなるのか、当時の私はまったく説明できませんでした。いまならFP3級の知識で説明できます。鍵は「減価償却(げんかしょうきゃく)」という仕組みです。
少しだけお付き合いください。むずかしくならないように書きます。
建物や、その中の設備(給排水・電気・空調など)は、時間がたつほど価値が下がっていきます。税金の世界では、その目減りした分を、毎年「経費」として計上してよいことになっています。これが減価償却です。
たとえば、高い家電を買ったとき、「去年より古くなった分」を毎年すこしずつ経費にできる――そんなイメージです。建物はもっと金額が大きいので、毎年計上できる経費も大きくなります。
ここでいちばん大事なのは、実際にはお金が出ていかないのに、経費にできるという点です。建物の代金は、買ったときに(ローンを含めて)すでに払う約束が済んでいます。それなのに、毎年「価値が減ったぶん」を経費として差し引ける。財布からお金が出ていない経費、それが減価償却です。
すると、どうなるか。
家賃収入よりも経費(減価償却+ローンの利息+管理費など)のほうが大きくなり、帳簿の上では「不動産の赤字」ができます。会社員の場合、この赤字を給与所得と合算(これを損益通算といいます)できるので、課税される所得が下がり、納めすぎていた所得税が戻ってきて、翌年の住民税も軽くなる――これが「節税」の正体です。
私の2区分では、この減価償却が年あたり合計でおよそ130万円ありました。たしかに、これは小さくない数字です。だからこそ、業者は自信をもって「節税になります」と言えたのでしょう。
ひとつ補足しておきます。この節税で戻ってくる金額は、年収(税率)によって変わります。年収が高い人ほど税率が高いので、戻ってくる額も大きく見えます。業者が年収の高い人をすすめる相手に選びやすいのは、ここに理由があります。けれど、毎月お金が出ていく構造そのものは、年収に関係なく同じです。戻る額が大きく見えても、その裏で出ていくお金が消えるわけではありません。
そして、ここには大きな落とし穴があります。次の章が、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
なぜ「赤字」なのに、財布のお金は減るのか
当時の私が完全に勘違いしていたのは、ここでした。
さきほど「帳簿の上で赤字ができる」と書きました。けれど、その赤字は「お金が出ていった赤字」ではありません。減価償却は、現金が財布から出ていかない経費だからです。帳簿の上だけの赤字、と言ってもいいかもしれません。
ところが、現実の財布では、まったく別のことが起きています。毎月、ローンの返済と管理費・修繕積立金が、しっかり出ていくのです。私の2区分を合計すると、こうでした。
| 毎月のお金の動き(2区分合計) | 金額 |
|---|---|
| サブリースの保証賃料(入ってくる) | プラス184,500円 |
| ローン返済(出ていく) | マイナス178,882円 |
| 管理費・修繕積立金(出ていく) | マイナス21,508円 |
| 毎月の手残り | マイナス15,890円 |
家賃が入ってきても、毎月およそ1万5,890円のマイナス。年間で約19万円、4年で約76万円。これは帳簿の話ではなく、本当に通帳から消えていったお金です。
つまり、2種類の「赤字」があるのです。
- ひとつは「帳簿の赤字」=減価償却が生む、節税のもとになる赤字。お金は減っていない。
- もうひとつは「財布の赤字」=毎月、本当にお金が出ていく、本物の赤字。
業者が「節税になります」と言うとき、見せているのは前者だけです。「税金が戻ってきてお得でしょう」と。けれど、その裏で財布は毎月確実に痩せていきます。後者の話は、強くは言われませんでした。
節税という言葉のいちばん怖いところは、ここだと思います。「税金が戻る」という喜びに気を取られて、「毎月お金が減っている」という事実から、目がそれてしまうのです。戻ってきた数万円の還付に「やっぱり節税になった」と安心して、その年に19万円出ていったことには気づかない。当時の私が、まさにそうでした。
節税効果は、買った直後がいちばん大きい
もうひとつ、業者が言わなかったことがあります。節税の効果は、ずっと同じではないということです。むしろ、年々小さくなっていきます。
さきほどの減価償却のうち、建物の「設備部分」(給排水や電気、空調などの設備)は、税のルール上、建物本体よりも短い年数で、一気に経費にできる決まりになっています。だから、買って最初の数年は経費が大きく、帳簿の赤字も大きくなります。節税効果も、このときが最大です。
逆にいうと、設備の償却が進んで終わっていくにつれて、経費は減り、帳簿の赤字も小さくなり、節税効果もしぼんでいきます。蛇口を最初に大きく開けて、年々細くしぼっていくようなイメージです。
私の場合も、まさにその通りでした。いちばん大きく税が戻ったのは初期で、年を追うごとに、戻ってくる金額は確実に小さくなっていきました。
ここに、もうひとつの落とし穴があります。多くの試算書は、節税効果がいちばん大きい初年度や数年目の数字を見せてきます。それを「毎年これだけ戻ってくるんだ」と思い込んで買うと、数年後には「あれ、思っていたより戻ってこない」となるのです。
節税効果は、買った瞬間がピーク。あとは下り坂。これは、買う前にこそ知っておきたかったことでした。
節税の裏で増えた、「確定申告」という手間
数字の話を続ける前に、もうひとつ、見落とされがちなコストにも触れておきます。手間とお金がかかる「確定申告」です。
会社員の多くは、年末調整だけで税金の手続きが終わります。確定申告とは無縁の人がほとんどでしょう。ところが、ワンルームマンションを買ったその年から、私は毎年「確定申告をする人」になりました。
不動産所得の計算は、思っていたよりずっと複雑です。家賃収入から、減価償却費・ローンの利息・管理費・固定資産税などを差し引いて所得を出す。減価償却にいたっては、建物と設備を分けて、それぞれの年数で計算します。FP3級の知識があるいまでも、正直に言って簡単ではありません。当時の私には、とても自分では手に負えませんでした。
そこで私は、確定申告を税理士にお願いしていました。もちろん、税理士に頼めば費用がかかります。つまり、「節税」で戻ってきたお金の一部は、その申告にかかる手間とコストに、そのまま消えていくわけです。
「節税になります」という言葉には、この手間賃は含まれていません。けれど現実には、節税という仕組みを動かすために、毎年の申告作業と費用がついて回ります。節税で得た分から、この手間とコストを引いて、はじめて本当の手残りです。ここも、買う前には説明されなかった部分でした。
答え合わせ:90万円のために、530万円を失った
では、4年あまりの保有で、私は結局いくら節税できたのか。
保有していた間、私は5回の確定申告をしました(令和2年から令和6年まで)。その結果、戻ってきた所得税と、軽くなった住民税を合わせて、ざっと約90万円。これが、私が手にした「節税」の総額です。
90万円。決して小さな額ではありません。これだけ見れば「やっぱり節税になったじゃないか」と思えます。
でも、思い出してください。私がこの投資で最終的に失ったのは、約530万円でした(vol.1でお話しした数字です)。
90万円を節税するために、約530万円を失った。失った額は、節税できた額の、およそ6倍です。
数字を並べると、はっきりします。「節税になりますよ」という言葉だけを切り取れば、たしかに本当でした。90万円は実際に戻ってきたのですから。けれど、出ていったお金まで含めて全体で見ると、まったく割に合っていなかった。「節税」という1点だけを見せられて、全体の収支から目をそらされていた――それが、私の4年間でした。
なお、この「約90万円」が、5年分の確定申告で1年ごとにいくら戻ったのか。実は、ある年は還付がほとんどなく、逆に少し納めた年もありました。還付額は年によって大きく動きます。その1年ずつの実額は、なかなかネットに出てこない生々しい数字なので、全部お見せする記事を別に用意します。数字を細かく追いたい方は、そちらをお楽しみにお待ちください。
FP3級が「節税」という言葉に思うこと
最後に、いまの私から、当時の私のような人へ。
「節税になります」と言われたら、ひとつだけ思い出してください。節税は、儲けではありません。税金が少し軽くなるだけで、その裏で毎月お金が出ていくのなら、トータルでは損をしていることもあります。私が、まさにそうでした。
そしてもうひとつ。節税の効果だけを見せられたら、「で、毎月いくら出ていくの?」と必ず聞いてください。戻ってくる額と、出ていく額。その両方を並べて初めて、本当の損得が見えます。片方だけでは、判断できません。
もし本当に「節税しながら将来に備えたい」のなら、ワンルームマンション投資の前に、もっと確実でリスクの低い方法があります。たとえばiDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛けた額がそのまま所得控除になり、しかも数千万円の借金を背負う必要がありません。同じ「節税」という言葉でも、中身はまるで違います。FP3級の勉強をして、私は初めてそのことを知りました。順番が逆だったと、いまでも思います。
「節税」「資産になる」「家賃が入る」――どれも、単体では耳ざわりのいい言葉です。でも、その言葉の中身を一枚めくると、まったく違う景色が見えることがあります。この記事が、その一枚をめくるきっかけになればうれしいです。
「節税」で借金を背負う前に、iDeCoという選択肢
本文でも触れたとおり、iDeCo(個人型確定拠出年金)は掛けた額がそのまま所得控除になる、国の制度です。数千万円のローンを組まなくても、節税しながら自分の将来に積み立てられます。松井証券は口座管理手数料が無料で、はじめての方でも始めやすい証券会社です。私のように遠回りする前に、まずは正しい「節税」から知っておくと安心です。
ワンルームマンション投資失敗シリーズ・続編予告
次回(vol.6)は、いよいよ「売る」話です。毎月お金が減り続けるこの2区分を、私がどうやって手放す決断をしたのか――4年で売り抜けた損切りの判断を、最初から最後までお話しします。
- vol.6:4年で売り抜けた損切り判断のすべて
- vol.7以降:売却時に初めて分かった問題(出口の税金・高値づかみの現実)
