2件のワンルームマンションを売り切って、ようやく終わった――そう思っていました。
ところが、本当の「答え合わせ」は、その翌年の確定申告で待っていました。保有中に「節税になる」と言われて計上してきた減価償却が、売るときになって、思わぬ形で牙をむいたのです。
このvol.7は、シリーズを通していちばんの肝、税金の答え合わせの回です。「節税のはずが、なぜ売却で税金の話になるのか」――FP3級・元オーナーとして、最後に残った落とし穴を正直に記録します。
※はじめての方は、失敗の全体像を書いたvol.1から読むと流れがつかめます。
売って終わった、と思っていた
2024年、私は2件のワンルームマンションをすべて手放し、合計約5,450万円のローンからようやく解放されました(その経緯はvol.6に書きました)。
決済をすべて終えた日は、本当に肩の荷が下りた気がしました。ようやく、この危なっかしい投資から抜け出せた――そのときの私の胸にあったのは、安心感だけでした。
でも、それは少し早とちりだったのです。
不動産を売った人には、翌年に確定申告が待っています。売却した年の譲渡について、利益が出たのか損が出たのかを計算し、税務署に申告しなければならない。買うときにはまったく意識していなかった「最後の手続き」です。
しかも私は、大きな損を抱えて売り終えたつもりでいました。これだけ損をしたのだから、もう税金とは無縁だ――本気で、そう思っていたのです。その思い込みが、根本から覆されることになります。終わったと思った瞬間に、もう一つの扉が開いていました。
販売会社側の税理士からの、思わぬ警告
確定申告をどう処理すればいいのか、私は税理士に相談しました。この税理士とのつながりは、もとをたどれば、物件を買ったときに販売会社の側から引き合わされたものです。
その税理士から、電話越しに、こう念押しされました。
「短期売却の税率と、減価償却を加味した最終的な税率が出ますが、大丈夫ですか」
正直、最初は何を言われているのか、すぐにはピンときませんでした。「節税になる」と言われて買ったはずの物件で、なぜ売ったあとに税金の心配をしなければならないのか。頭の中が「?」でいっぱいになりました。
なにしろ、損を覚悟で手放し、決済では130万円近い現金まで自分で持ち出したばかりです。これだけ損をして、なお税金まで取られるかもしれない――そんなことが、すぐには飲み込めませんでした。
思い返せば、業者は買うときに「節税になります」とは熱心に言いました。でも、その節税が売却のときにどう跳ね返るのかは、ただの一度も説明してくれませんでした。
出口の税金リスクを、いちばん最初に口にしたのが、よりによって販売会社の側にいる税理士だった。買わせる側に近い立場の人からですら念押しされるほど、この問題は見過ごせないものだったのだと、あとになって分かりました。当時の私は、その重さにまだ気づいていませんでした。
なぜ「節税」が売却で牙をむくのか
ここが、このシリーズで一番伝えたかったところです。少しだけ、仕組みの話にお付き合いください。難しくありません。
売ったときの税金(譲渡所得)は、ざっくりこう計算します。
譲渡所得 = 売った金額 −(取得費 + 売るためにかかった費用)
カギになるのは「取得費」です。これは「買った値段」そのもの、ではありません。買った値段から、保有中に経費にしてきた減価償却を差し引いた金額になります。
つまり、減価償却は「保有中」と「売るとき」で、正反対の顔を見せます。
| タイミング | 減価償却がすること | 結果 |
|---|---|---|
| 保有しているあいだ | 価値の目減り分を毎年の経費にする | 所得税・住民税が軽くなる(vol.5の「節税」) |
| 売るとき | 経費にしてきた分だけ取得費が下がる | 売った金額との差=譲渡益が大きく出て、税金がかかりやすい |
同じ「減価償却」が、買っているあいだは味方の顔をして、売る瞬間に敵に回る。これが、この問題の分かりにくさの正体です。
言葉だけだと分かりにくいので、簡単な例で説明します。たとえば2,000万円で買った建物を、保有中に合計200万円ぶん減価償却したとします。すると税務上の「取得費」は1,800万円まで下がります。この物件を1,900万円で売ると、実際には買値より100万円安く手放したのに、税務上は「1,900万円 − 1,800万円 = 100万円の利益」とみなされ、そこに税金がかかるのです。「損して売ったのに、税金がかかる」という逆転が、ふつうに起こります。
私のケースでは、4年間の減価償却の累計は中野富士見町で約325万円、新横浜で約202万円にのぼっていました。このぶん、それぞれの取得費が削られていたのです。
ここで気づきました。保有中に「節税」で得をしたぶん、売るときには取得費が小さくなって、税金がかかりやすくなる。 結局のところ、減価償却は税金を消してくれる魔法ではなく、「先に軽くしてもらって、後で取り返される」繰り延べに近いものだったのです。
「減価償却で節税してきた人ほど、売却時に譲渡益が出る」――この構造を、業者は決して説明しませんでした。
答え合わせ:中野富士見町は損・新横浜は益
では、私の2件は実際どうだったのか。確定申告での「答え合わせ」がこちらです。
| 物件 | 税務上の譲渡所得 |
|---|---|
| 中野富士見町 | △約122万円(譲渡損失) |
| 新横浜 | +約124万円(譲渡益) |
| 合計 | +20,914円(ほぼゼロ) |
同じように買って同じように売ったのに、2件で正反対の結果になりました。理由は、それぞれの物件で起きたことが違ったからです。
新横浜は、譲渡益が出ました。 買った値段は約2,180万円。そこから4年分の減価償却を引いた取得費は約1,978万円まで下がっていました。売れた金額がこの下がった取得費を上回ったため、税務上は「利益が出た」と判定されたのです。物件価値の下落より、減価償却による取得費の目減りのほうが効いた、という形です。まさに「節税の代償」が数字に表れた一件でした。
中野富士見町は、譲渡損失でした。 こちらは物件そのものの価値下落が大きく、減価償却を引いた取得費(約3,025万円)をもってしても、売値が届かなかった。立地や相場の影響をまともに受けたケースです。
そして、この2件の損益がぶつかり合った結果、合計はわずか+20,914円。ほぼピッタリ相殺され、売却した年の譲渡所得への課税は、実質ゼロで着地しました。
ただ、ここで安心してほしくないのです。もし新横浜の1件だけを持っていたらどうだったか。+124万円の譲渡益に、買って5年以内の売却=短期譲渡として約4割の税金(vol.6で触れた税率です)がかかっていました。ざっと50万円近い納税です。
それを免れたのは、たまたま中野富士見町のほうで損失が出て、相殺できたからにすぎません。税理士の警告が現実にならなかったのは、私の計画でも知恵でもなく、ただの偶然でした。一歩間違えば、売って手元の現金も減ったうえに、さらに税金まで払う――そうなっていてもおかしくなかった。振り返ると、ここが一番、背筋が冷えた瞬間です。
しかも、ワンルームマンション投資をしている人の多くは、1件だけの所有です。複数を同時に売って損と益をぶつけられる人のほうが、むしろ少数派でしょう。つまり、私が”偶然”で助かったこのリスクは、たいていの人にとっては普通に降りかかってくるものだということです。1件だけ持っていて、そこに譲渡益が出れば、相殺してくれる相手はいません。
税務上ゼロ=得をした、ではない
「税金がほぼゼロなら、結果オーライじゃない?」と思うかもしれません。でも、ここも勘違いしやすいところなので、はっきり書いておきます。
税務署から見た損益(+2万円)と、実際に財布から出ていったお金は、まったくの別物です。
税務上はトントンでも、現実には、売却の決済で約129万円を自分で振り込んでいます(その内訳はvol.6に書いたとおりです)。さらに、4年間の毎月の赤字、買ったときにかかった諸費用――これらを全部合わせた損失が、シリーズで何度も書いてきた約530万円でした。
「税務上は損益ゼロ」という数字は、得をした証ではありません。現金は確実に減っているのに、税金の計算の上ではそれが損として認められるわけでもない。最後の最後まで、私は数字のマジックに振り回された気分でした。「税金がかからなかった」と「損をしなかった」は、まったく違う話なのです。
税金の世界の「損益ゼロ」と、自分の生活の「損得」は、別々の物差しで動いている。それを身をもって思い知らされたのが、この確定申告でした。
まとめ|出口の税金は、誰も教えてくれない
7回にわたって書いてきたこのシリーズで、いちばん伝えたいことは、結局これに尽きます。
業者は「入口の節税」しか語りません。「出口の税金」は、絶対に教えてくれません。
「節税になります」と言われて減価償却を計上してきた4年間。その代償は、売却のときにきちんと返ってきました。減価償却は魔法ではなく、先に軽くして、後で取り返される仕組み。私はそれを、物件を売って初めて、確定申告の場でようやく理解したのです。あまりに遅い「答え合わせ」でした。
もし今、ワンルームマンション投資を勧められている人がいるなら、ひとつだけ覚えておいてください。「節税」という言葉が出たら、必ず”出口”を計算する。 売るときにいくらで売れて、減価償却でいくら税金がかかり、手元に最終的にいくら残るのか。そこまで計算してから、買うかどうかを決めてほしいのです。
具体的には、最低でもこの3つを、正直な数字で出してみてください。
- 数年後に売るとき、いくらで売れそうか(新築のプレミアムは、買った瞬間に消えていきます)
- 減価償却で取得費が下がり、売却時にどれくらい譲渡益と税金が出るか
- そのとき、ローンの残債を売値で返しきれるか(返しきれなければ、差額は自腹です)
この3つを並べてみて、それでも「買う価値がある」と思えるかどうか。私はこの計算を、買ってから4年も経って、すべてを失ったあとに、ようやく自分でやってみたのです。
私はそれをしないまま、勢いで2件も買い、4年で約530万円を失いました。決して安い授業料ではありません。でも、この経験をただの「失敗」で終わらせず、誰かが立ち止まるきっかけになるなら、書いた意味があると思っています。
振り返れば、長い道のりでした。失敗の全体像から始まり、勧誘の構造、買った瞬間に下がる新築プレミアム、知らぬ間の二重サブリース、期待した節税の現実、5,450万円のローンを手放した損切り――そして最後に、この税金の答え合わせ。たった2件の小さなワンルームマンションの失敗を、これだけ多くの角度から見つめ直すことになるとは、買ったときには想像もしていませんでした。それだけ、落とし穴があちこちに仕掛けられていた、ということなのだと思います。
ここまで7回、長いシリーズにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。失敗の”本筋”は、ひとまずここまでです。
ただ、まだ書ききれていないことが、いくつも残っています。各年の確定申告で実際にいくら還ってきたのか、そして売却が思わぬ「消費税」の問題にまで及んだ話――こうした細かい部分は、これから1つずつ掘り下げて記事にしていきます。落とし穴は、最後の最後まで尽きませんでした。引き続き、お付き合いいただけたらうれしいです。
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