vol.4「私の部屋は二重サブリースだった」で、私はこう書きました。この転々貸については、契約書にさらに踏み込んだ取り決めがいくつも書かれていた。あまりに衝撃的な中身なので、詳細は別の記事であらためて書きます——と。
この記事が、その約束の続編です。
私が実際に契約した2通の契約書を、あらためて最初の条文から最後まで読み直しました。ここに書くのは、法律の解説でも、業界の一般論でもありません。私の手元にある契約書に、実際に書かれていたことだけです。これからワンルームマンション投資やサブリース契約を考えている方に、契約書のどこを見ればいいのかが伝わるように書きました。
この記事で公開するもの——実際の契約書2通
前提を整理します。私は2020年に、新築ワンルームマンションを2件契約しました(経緯はvol.1に書いています)。そのとき交わした家賃保証の契約書が、次の2通です。
- 1通目:2020年春に契約。タイトルは「サブリース契約書」
- 2通目:同じ年の夏に契約。タイトルは「一括賃貸借契約書」
同じ保証会社、同じ仕組みなのに、タイトルが違う。そして2通目の書式番号の末尾には「免責有」という文字が添えられていた——ここまではvol.4で書いたとおりです。
今回この2通を全条文で読み比べて、分かったことが2つあります。ひとつは、どちらの契約書にも、オーナーが想像していない取り決めがいくつも書かれていたこと。もうひとつは、たった4ヶ月のあいだに、契約書の中身がオーナーに不利な方向へ書き換わっていたことです。
条文を引用するとき、「甲」はオーナーである私、「乙」は保証会社(サブリース会社)を指します。この2文字を頭に置いて読んでみてください。
第1条:転々貸は「最初から目的」だった
まず、vol.4で見つけた「転々貸」の条文です。契約書の第1条、いちばん最初にこう書かれています。

乙は、本物件を、住居として管理規約に定める用途で第三者に転貸すること(本物件を住居として第三者に転々貸することを目的とする事業者への転貸を含む)を目的として甲より賃借し、甲は乙による第三者への転貸を予め包括的に承諾する
私の部屋が別の業者にまた貸しされていたのは、偶然でも例外でもありませんでした。契約の入口で、転々貸を「予め包括的に承諾」させられていたのです。契約したときの私は、この一文の意味をまったく読み解けていませんでした。
そして、同じ第1条の2項。ここが、この契約書でいちばん背筋が冷えた条文です。
転貸借契約における賃料、管理費・共益費、敷金、礼金、契約更新料、更新契約書作成事務手数料等の諸条件は乙が任意に定めるものとし、甲は本物件における乙と転借人との賃貸借契約について、一切の異議を述べない。なお、乙は甲に、転借人との賃貸借契約に関する事項を開示しないものとする。
分解すると、こうなります。
- 部屋がいくらで又貸しされるかは、業者が自由に決める
- オーナーは、それに一切文句を言えない
- そして業者は、その中身をオーナーに教えない
vol.4で私は「業界の人には当たり前のことを、契約した私だけが何年ものあいだ知らずにいた」と書きました。でも、契約書を読み直して分かりました。私が知らずにいたのは、うっかりではありません。「知らせない」ことが、契約書に明記されていたのです。
お金の条文|礼金も更新料も業者のもの、小さな修理は家賃から天引き
次に、お金に関する条文を見ていきます。
礼金・更新料は、すべて業者が取得します(第8条)。
乙が転借人より受領する敷金・礼金、契約更新料又は更新契約書作成事務手数料等は、乙が取得するものであり、甲はこれらに対して一切の権利を有しないものとする。
入居者が支払う礼金も、2年ごとの更新料も、オーナーには1円も入りません。「一切の権利を有しない」とはっきり書かれています(敷金は預り金なので、契約が終わるときにはオーナーへ引き継がれます)。
免責期間は、入居者が家賃を払っていてもオーナーには支払われません(第5条3項)。
本契約開始日から賃料支払開始日前日までの期間については、乙が転借人から取得する転貸賃料収入の有無にかかわらず、甲に対して保証賃料を支払うことを要しないものとする。
サブリースには「免責期間」と呼ばれる、契約開始から保証賃料の支払いが始まるまでの空白期間があります。その期間中に入居者がいて家賃が発生していても、それは業者のものになる——「収入の有無にかかわらず」という一言に、それが凝縮されています。
3万円以下の修理は、業者の判断で実施され、保証賃料から差し引かれます(第12条)。
本物件の修理・交換等において、1回につき30,000円以下(消費税を除く)の修理・交換費用については乙の判断で行うことができる
オーナーの了解なしに修理が行われ、費用は保証賃料との相殺、つまり家賃からの天引きです。金額としては小さく見えますが、「自分の持ち物の修理を、自分が決められない」という構造がここにも表れています。
「家賃保証」が止まる・下がる条文
「35年間、空室でも家賃が入る」。私が契約の決め手にした家賃保証には、止まる条件と下がる仕組みが、条文でしっかり用意されていました。
保証賃料が止まる・減る条件は、災害だけではありません(第7条)。支払いの停止・減額ができる事由のなかに、こんな記載があります。
住環境(日照・騒音・臭気等)の著しい悪化、その他諸般の事情等により、乙の入居者等募集又は入居者等による本物件の使用に著しい支障が生じ、乙が転借人等から取得すべき転貸賃料の全部又は一部が減額される事態が発生したとき
隣に高い建物が建って日当たりが悪くなった。近くの工事がうるさい。そういう、オーナーにはどうにもできない事情でも、保証賃料は止められたり減らされたりする建て付けです。「保証」という言葉から想像する姿とは、ずいぶん距離があります。
保証賃料の改定は、実質的に業者主導です(第6条)。保証賃料は2年ごとなどの節目に見直されますが、その協議がまとまらなかった場合はどうなるか。
協議が整わなかった場合、乙の定める額を保証賃料とする。
話し合いが決裂したら、業者が決めた額になる。オーナーに残されている選択肢は「その額を受け入れる」か「サブリース契約そのものを終了して、管理委託契約に切り替える」かの二択です。さらに、改定のたびに業者所定の書式で契約書を再締結し、受領後14日以内に返送しなければならないという期限まで定められています。
出口の条文|売却を「検討」しただけで通知義務
vol.4では、解約の実体験——6ヶ月前の予告と、保証賃料1ヶ月分の解約金(1件目108,720円・2件目75,780円)——を書きました。今回はその根拠になっていた条文と、解約・売却まわりの取り決めを整理します。
売却は「検討」の段階で通知義務があります(第16条)。オーナーが遅滞なく業者に通知すべき事項として、住所や連絡先の変更と並んで、こう書かれています。
本物件の売却を検討するとき
売った時ではありません。考え始めた時点です。私はこの条文を、手放す手続きを進める中で初めて認識しました。
譲渡するなら、サブリース付きのまま(第10条)。契約期間中に物件を第三者に譲渡する場合、オーナーは業者の定める条件に従って、契約上の地位を買主に引き継がせなければなりません。つまり「サブリースを外して売る」ためには、先に解約金を払って契約を終わらせる必要がある。vol.4で「先に解約してから売るのが基本」と書いた背景には、この条文があります。しかも、承継の手続きが完了するまで、業者は保証賃料の支払いを留保できるとも書かれています。
解約しても、入居者との契約は「異議なく」引き継ぎます(第15条)。
甲は乙が第1条第1項により転借人と締結した賃貸借契約における乙の賃貸人の地位を引き継ぐものとする。この場合、甲は、乙より引き継いだ当該賃貸借契約の条件について、一切異議を述べないものとする。
サブリースをやめれば自由になれる、わけではありません。業者がいくらで・どんな条件で結んだのかを知らされていなかった契約を、そのまま、異議も言えずに引き継ぐ。第1条の「開示しない」と、この第15条の「異議を述べない」は、セットで効いてくる構造です。
4ヶ月で契約書はこう変わった|「免責有」の書式で増えていた条項
ここからが、今回2通を全条文で読み比べて分かった、この記事の核心です。
vol.4で書いたとおり、1通目と2通目の間には、サブリース業者を規制する新しい法律(サブリース新法)の成立がありました。時系列でいえば、春に1通目を「サブリース契約書」で契約し、6月に新法が成立し、夏に2通目を「一括賃貸借契約書」で契約した。そして2通目の書式番号には「免責有」の文字が添えられていた——。
その「免責有」の書式で、何が変わっていたのか。全条文を突き合わせた結果がこれです。
①「サブリース」の文字は、本文からも消えていた
タイトルが変わっただけではありませんでした。1通目では「乙所定の書式でサブリース契約書を締結する」となっていた条文が、2通目では「一括賃貸借契約書を締結する」に書き換わっていました。契約書の中から、「サブリース」という言葉そのものが消されています。
② 物件が譲渡されると、契約期間が「2年」に短縮される条項が増えた(第2条)
2通目にはこうあります。
甲が第三者に本物件を譲渡し、本契約の契約上の地位を第三者に承継した場合、本契約の契約期間は、本物件の第三者への譲渡日から2年間に短縮する。
「35年保証」を前提に買った物件でも、所有者が変わった瞬間、残りの保証期間は2年になる。1通目には、この条項はありません。
③ 保証賃料の「自動減額」条項が増えた(第7条2項)——これが「免責有」の実体だと私は理解しています。
1通目では、入居者側の事情で転貸賃料が減った場合は「協議の上」で保証賃料を見直す建て付けでした。2通目では、こう変わっています。
乙から甲へ支払う保証賃料は、転貸賃料が減額された月以降、減額された金額と同額まで減額されるものとし、この場合、甲は、乙に対し当該保証賃料の減額について何ら異議の申立をせず、また、乙が当該保証賃料の減額について何ら責を負わないことを確認する。

協議すらありません。入居者の家賃が下がったら、オーナーの保証賃料も自動で同じだけ下がる。異議は申し立てない。業者は責任を負わない。「保証」の実態が、この一項に集約されていると思います。
④ 修繕の「みなし承諾」条項が増えた(第12条)
2通目では、業者から修繕が必要だと通知を受けたオーナーが相当期間内に回答しない場合、業者や入居者側が修繕を実施でき、オーナーは異議を申し立てられない、という項が追加されていました。
⑤ 譲渡の通知期限が具体化・厳格化された(第10条)
1通目の「事前に書面で通知」が、2通目では「譲渡日の1か月前までに書面で通知」に変わっています。
新法は、サブリース業者に契約前のリスク説明を義務づけるための法律でした。その成立を挟んだ4ヶ月で、私が結んだ契約書は、名前から「サブリース」を消しながら、中身はオーナーへの保証を弱める方向に進化していた。私は法律の専門家ではないので、その意図を断定することはできません。ただ、2通の契約書を並べれば誰でも確認できる事実として、ここに記録しておきます。
これから契約する人へ|契約前に見る条文チェックリスト
FP3級の勉強をして、2件のサブリースを契約して、損をして手放した私が、もし契約前の自分に契約書を渡せるなら、最低限この5か所に付箋を貼ります。
- 転貸の範囲(第1条相当)——「転々貸」「転貸することを目的とする事業者への転貸を含む」の文言はないか。あれば、あなたの部屋は二重サブリースになる前提の契約です
- 開示の有無(第1条相当)——入居者との契約内容を「開示しない」と書かれていないか。書かれていたら、又貸しの実態を知る手段は契約上ありません
- 礼金・更新料の帰属(第8条相当)——入居者が払うお金のうち、オーナーに入るものは何か。「一切の権利を有しない」の一文を探してください
- 保証賃料が止まる・下がる条件(第6条・第7条相当)——災害以外にどんな事由で止まるのか。「協議が整わなかった場合」誰が決めるのか。「自動で減額」「異議を申し立てない」の文言はないか
- 出口の条件(第10条・第14条・第16条相当)——解約の予告期間と解約金はいくらか。売却を「検討」した段階の通知義務はあるか。譲渡したら保証期間はどうなるか
これは業者を疑えという話ではなく、契約前に質問していい、当然の確認です。もし営業担当が答えをはぐらかすなら、その反応自体がひとつの答えだと、いまの私は思います。
まとめ|「保証」の中身は、条文で決まっていた
2通の契約書を読み直して、あらためて分かったことを整理します。
- 二重サブリース(転々貸)は、第1条で最初から目的として承諾させられていた
- 又貸しの条件は業者が決め、オーナーは異議を言えず、内容も知らされない
- 礼金・更新料は業者のもの。保証賃料は災害以外の事由でも止まり、協議が決裂すれば業者の定める額になる
- 売却は「検討」段階で通知義務。譲渡すればサブリース付きのまま、書式によっては保証期間が2年に短縮
- 新法成立を挟んだ4ヶ月で、契約書は名前から「サブリース」を消しつつ、中身はオーナーに不利な方向へ改定されていた
「35年間、空室でも家賃が入る」という言葉を信じて契約した私が、実際に手にしていたのはこういう契約でした。営業トークは録音でもしない限り残りません。でも、契約書は残ります。そして、そこに書かれていることがすべてです。
もしいま、手元にサブリース契約書があって、一度もきちんと読んだことがないなら——私のように手放すことを決めてからではなく、今日、読んでみてください。そして、ご自身の部屋がいまいくらで売れるのかを知っておくことは、読み終えたあとの現実的な次の一歩になります。私の実体験はvol.4:私の部屋は二重サブリースだったと売却の一括査定体験談に書いています。
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※本記事は、私が実際に締結した契約書の記載内容と実体験の記録であり、特定の事業者の評価や法的助言を目的とするものではありません。契約書の内容は契約時期・事業者により異なります。
