vol.1 では、4年で約530万円を失った新築ワンルームマンション投資の全体像をお伝えしました。このvol.2では、そもそも私がなぜ5,000万円超のローンを組むに至ったのか――勧誘から契約までの数ヶ月を、当時の場面ごとに振り返ります。
社内で仲のいい上司からの紹介、出張先まで来てくれた業者、「節税」「資産性」「団信」のセールスフレーズ、2件目で受け取った紹介手数料30万円の譲渡。そして物件を一度も見ないままサインしたこと――。
業者だけを責める記事ではありません。信頼関係と業者の食らいつき、そして私自身のキーワード誤認が重なって、私はこの新築ワンルームマンション投資へ踏み込んでいきました。今、勧誘を受けている方や、不動産投資を検討している方に、当時の私が見ていた景色をそのままお伝えします。
始まりは「いい話があるんだけど」
ワンルームマンション投資の話を最初に聞いたのは、会社の休憩中のことでした。仕事の合間にいつものように雑談していた相手は、当時の直属の上司です。仲がよく、社内で一番信頼していた人でした。
その上司がもう何年も前からワンルームマンション投資をしていることを、私は以前から知っていました。所有しているのは1〜2区分です。同じ職場の人が、同じくらいの規模で実際に投資をしている――その事実が、私の警戒心をあらかじめゆるめていたのだと思います。
休憩中、上司から切り出されたのは、その日の本題でした。「じつは業者から新しい物件の話が来ているんだ。場所もいいし悪くないんだけど、自分は今回は買わないつもり。よかったら聞いてみない?」――それが、中野富士見町の新築ワンルームマンションでした。
そして上司はこう続けました。「いま私が任せている業者は信頼できるよ」「場所のいい物件を持ってきてくれる」――商品の細かい説明ではなく、業者そのものへの信頼でした。投資の内容ではなく、紹介者の安心感で勧めてくる構造です。
「ぜひお願いします」――私は迷わず返事をしていました。投資の中身を聞く前の返事です。
いま思えば、ここがすべての始まりでした。商品ではなく人を信じた瞬間に、私は判断を半分手放していたのです。担当者に会う前から、私の中では「これは大丈夫な投資」という結論ができあがっていました。
ただ――この時点ではまだ、ひとつの疑問が私の中で言葉になっていませんでした。勧めてくれた上司自身は、本当にこの投資の中身を分かっていたのだろうか、ということです。
上司は被害者か、加害者か
時系列を少し先に進めます。私が2区分のワンルームマンションを売却する決断をしたのは、契約から約4年後、2024年のことでした。
その判断を上司に話したとき、返ってきた言葉は意外なものでした。「自分は売らないよ」。私と同じ販売会社で、同じくらいの規模(1〜2区分)を持っている上司は、はっきりとそう言ったのです。私はそれ以上踏み込まず、自分の売却を進めました。
ところが――私の売却がすべて完了してから約半年後、その上司も売却に向けて動き、最終的に売り抜けたのです。
「自分は売らない」と言っていた人が、半年後に売っていた。この事実をどう受け止めればいいのか、私はいまも答えを持っていません。本人に直接、なぜ売ったのかを聞いたわけでもありません。心境は分からないままです。
ただ、ひとつだけ思うことがあります。私の損切りという行動が、上司に何かを考えさせるきっかけになったのかもしれない――そんな推測です。あくまで私の主観で、上司本人がどう感じていたかは分かりません。
ここで浮かび上がってくるのは、上司は加害者でもあり、同時に被害者でもあったのかもしれない、という構造です。私に勧めた時点では「いい投資」と信じていた可能性が高いでしょう。だからこそ自分でも1〜2区分を持っていたのです。けれども結果として、私は4年で530万円の損失を背負い、上司も最終的に売却で物件を手放しました。
つまり、業者の言葉を信じた個人が、別の個人にその信頼を渡してしまう。信頼の連鎖の中で、加害者と被害者の境目があいまいになっていく――これがワンルームマンション投資の勧誘構造の、いちばん見えにくい部分です。
ただし、当時の私はここまで考えていませんでした。「上司も買っている安心な投資」――それしか頭になかったあの頃の私は、業者の担当者との初対面の日を迎えることになります。
販売会社の担当者との初対面
初対面の日は、上司・販売会社の担当者・私の3人でカフェに集まりました。担当者は、若手で、服装も身だしなみもきちんとしていた印象です。第1回の中身は、パンフレットと口頭での説明だけ。商品のことを一通り聞いて、私の中では興味のほうが警戒を上回り、「もう少し詳しく聞きたいです」と次回の約束を取りつけました。
ここからが、いま振り返ると分岐点でした。
第2回の打ち合わせ候補日として担当者が提案してきた日は、私の出張日と重なっていました。普通なら「日を改めてください」と返すところです。けれど当時の私の心の中には、すでに「早く契約しなければ買えない」という焦りが芽生えていました。信用していた上司もすでに買っている。業者の話も悪くない。だったら自分も早く決めないと、という気持ちです。
そこで私は出張先(東海エリア)まで来てもらえないかと相談しました。返事はあっさりしたものでした。「こちらから伺います」。
出張当日に集まったのは、私と業者だけではありませんでした。上司も同じ出張に同行していたため、第1回と同じく同席することになったのです。販売会社からは担当者と、その上席。合わせて4人での打ち合わせになりました。
打ち合わせ場所のテーブルに広げられたのは、35年間の収支試算表や、月々のキャッシュフローを書き出した資料一式。信用していた上司が隣にいて、業者は出張先まで来てくれて、資料も一通りそろっている。私には、迷う理由が見当たりませんでした。
その場で仮申込書類にサインしました。判断を保留する余地は、すでに私の中になかったのです。
後日、本契約は販売会社の東京本社で改めて行いました。宅建士からの重要事項説明もきちんと受け、必要な手続きは法的にも整っていました。
売買契約書にサインした日は、2020年3月7日。1件目の契約日です。
私の心を動かした3つ──「資産性」「キャピタルゲイン」「サブリース安心」
第2回の打ち合わせで、業者は35年間の収支試算表や月々のキャッシュフロー、節税効果の数字――いろいろな話をしてくれました。けれど振り返ってみると、私の心を本当に動かしたのは、その中の3つの言葉だけです。
① 「場所が本当にいいので、資産性が高いんです」
丸ノ内線・中野富士見町駅から徒歩8分。「東京23区内・人気路線・駅徒歩8分」というブランド感が、私の中で大きく作用しました。3つの中でも、これがいちばん響いたセリフです。
② 「値上がりしたタイミングで売れば、それだけで利益が出ますよ」
いわゆるキャピタルゲイン狙いの説明です。「持っているうちに価値が上がる→売って差額をもらう」というシンプルな話は、①の「資産性が高い」と相まって、私の中で「きっと値上がりする」という確信に変わりました。
③ 「サブリース契約があるので、空室になっても家賃は私たちが保証して振り込みますよ」
そう聞かされたとき、私のなかから空室リスクという不安はあっさり消えてしまいました。35年もの長期ローンを背負うとき、いちばん怖いのは「家賃が入らなくなる月」です。それを「業者が保証する」と言われれば、不安要素のひとつが丸ごと取り除かれた気がしました。いま振り返ると、これがvol.2 全体で一番のキーワードかもしれません。
業者は「節税になる」「団信で家族に残せる」とも話しました。けれど節税は数字が細かすぎて頭に入らず、独身の私には「家族に残せる」もそれほど刺さりませんでした(節税の数字の実態はvol.1 章2で詳しく書いています)。
ただ「家族に残せる」と言われた瞬間、私はふと「独身ですが、姪に残すことはできますか?」と聞いてしまいました。業者は「できますよ」と即答。当時の私の心を強く動かしたわけではありませんが、独身の自分がそれでも何か残せるという言葉に、つい反応してしまったのだと、いま振り返って分かります。
そして最後、担当者が言いました。
「こんないい物件は、なかなか他には出ませんよ」。
私は仮申込書類にサインしました。
ただ――この時点で、私はある決定的な抜けに、まだ気づいていませんでした。
物件を一度も見ずに契約した
その「決定的な抜け」とは――私は中野富士見町の物件を、一度も見ていませんでした。
業者から「現地を見に行きませんか」という提案は、一度もありませんでした。商談の中で、内見の話題そのものが上がらなかったのです。
そして当時の私自身も、見に行く必要があるとは思っていませんでした。Googleマップで場所だけ確認したのです。「丸ノ内線・中野富士見町・徒歩8分」――この条件さえあれば、物件そのものは見なくても大丈夫だろう、と思いこんでいました。
立地のブランド感が、私の中で物件そのものの確認をスキップしてしまったのです。業者を信頼し、上司を信頼し、立地データを信頼していました。「見なくても良い物件」――そう自分に言い聞かせていたのだと、いま振り返って分かります。
結果として、私はこの中野富士見町の物件を、契約から売却まで4年間、一度も自分の目で見ることはありませんでした。数千万円を払う買い物で、一度も建物を見ない――いま書いていても、信じられないことです。
そして1件目の契約から4ヶ月後、2件目の話が動き出します。
2件目の話──新横浜と、紹介手数料30万円の譲渡
1件目(中野富士見町)の契約から、わずか4ヶ月後でした。上司が、また休憩中に切り出してきたのです。「いい物件があるんだけど、聞いてみない?」
それが2件目――新横浜駅徒歩8分のワンルームでした。
物件の出どころも、上司は正直に話してくれました。「もともと自分が担当者から紹介された物件なんだけど、いい物件だから譲ろうと思って」――そう言われて、私の中の迷いはすぐに消えました。1件目で築いた信頼は、もう完成形に達していたのです。
そして、上司はこうも言ってくれました。「この物件、自分が紹介者として動けば紹介手数料が30万円もらえるんだけど、それも譲るよ」。
通常、新規顧客を紹介した人には販売会社から紹介料が支払われます。本来は上司が受け取るはずの30万円を、私に譲ってくれるという話でした。販売会社も承諾の上で、私に直接振り込まれる仕組みが整っていたのです。
当時の私の心境は、いまでもはっきり覚えています。うれしかった。そして、ありがたかった。上司の好意と業者の柔軟な対応で、私は新規物件と30万円の両方を受け取ることになったのです。
なぜそんな仕組みなのか、誰の懐から30万円が出ているのか――その疑問を持つだけの知識は、当時の私にはありませんでした。
2件目の契約は、1件目よりさらに速いペースで進みました。商談から契約まで、迷うところがほとんどなかったのです。1件目を契約した4ヶ月後――2020年7月6日、私は2件目の売買契約書にサインしていました。
これで、5,000万円超のローンと2区分のオーナー人生が始まりました。当時の私は、それを「自分が選び取った人生」だと信じていました。
振り返って分かった勧誘構造──そして、いまの私から当時の私へ
ここまで読んでくださった方には、もうお気づきかもしれません。私が5,000万円超のローンを組み、4年で530万円を失うまでの過程には、3つの構造がありました。
1つめは「信頼の連鎖」。社内で仲のいい上司、その上司もすでに同じ販売会社で買っている、第2回の打ち合わせには上司も同席する――業者ではなく人を信じた瞬間に、私は判断の半分を手放していました。
2つめは「業者の食らいつき」。出張先まで来てくれる、上席も同席してクロージング体制で来る、「こんないい物件は他に出ない」と希少性で背中を押される。一見親切に見える対応は、数千万円の契約を取りに行くための「営業投資」だったのです。
3つめは、私がいまもいちばん怖いと思っている「キーワード誤認」。「節税」「資産性」「団信で家族に残せる」――これらの言葉は、それぞれを単体で聞けば耳ざわりがいいものです。けれど実際は、節税効果はごくわずか、資産性は売却するまで分からない、団信は独身者には意味が薄い。ポジティブな言葉だけで物事の全体像が見えていると錯覚させる――これがこのジャンルの最大のワナでした。
だから、いま、この記事を読んでくださっているあなたへ、お伝えしたいことがあります。
「節税」「値上がり」「家族に残せる」という言葉が出てきたら、まず出口(売却時のお金の流れ)を自分で計算してから、判断してください。シミュレーション、ローンの試算、税金の試算、相続の試算――どれも自分の手元で書き出してみると、業者の言葉と数字のあいだに大きな差があることが見えてきます。
そして、もしいま当時の私に言葉をかけられるとしたら、私は迷わずこう言います。
そもそも見送る。
迷っているうちは、まだ見送るタイミングが間に合います。あの時の私には、それを伝えたかった――いま、心から、そう思います。
気になる商品があれば、業者の話だけで判断せず、第三者のFPに相談してみるのも一つの方法です。FPカフェは、資産形成と保険を中立的な立場で無料相談できるサービスです。
ワンルームマンション投資失敗シリーズ・続編予告
このvol.2では、勧誘の経緯と業者の手口を中心に掘り下げました。続くvol.3以降では、別のテーマをさらに細かく書いていきます。
- vol.3:5,000万円超ローンの罠+新築物件の構造(金利・5年ルール・新築プレミアム)
- vol.4:サブリース契約の正体と二重構造
- vol.5:「節税」という言葉の裏側にあるリアル
- vol.6:4年で売り抜けた損切り判断のすべて
- vol.7以降:売却時に初めて分かった問題(二重サブリースの発覚・高値づかみのリアル・出口の税金など)
※ シリーズは順次公開予定。テーマは執筆過程で追加・調整される可能性があります。
